フランス東部ジュラ地方に近いディジョン在住のワイン研究家 菅沼はるみ様より、リュネット・ジュラの原点であるフランスの様々な楽しい情報をお届けして参ります。
今回は第七弾。
待ちに待ったワインのお話です。
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ワイン村が、一年で最もにぎわう季節の到来です。
今年は、例年より早くぶどう収穫が始まりました。
ブルゴーニュでも、特にワインファン憧れのコート・ドールは、ロマネ・コンティやシャンベルタン、モンラッシェなど、世界を代表するぶどう畑が、きら星のごとく連なります。
これらのぶどう畑を貫くグランクリュ街道は、「ブルゴーニュのシャンゼリゼ」とも呼ばれています。
コート・ドールはフランス語で「黄金の丘」の意味。
秋にはぶどう畑が紅葉し、黄金色に輝く丘となることから、名づけられました。
フランス全体から見ると、コート・ドールのぶどう畑は1%強しかありません。
それでも9000ha以上あり、収穫は一苦労です。
近年、機械収穫の所もありますが、コート・ドールでは収穫人による手収穫が主流です。
この時期、フランス全土で約30万人の収穫契約が交わされます。
ブルゴーニュは約5万人で、そのうちコート・ドールは約2万5000人です。
普段は静かな村が、この時期だけは、大勢の収穫人で溢れかえります。
ではいったい、どのような人達が収穫をするのでしょうか。
失業率の高いフランスでは、収穫の仕事が貴重な収入源である人達が少なくありません。
この時期、複数のワイン産地を渡り歩く人もいます。
アルバイトを見つけづらい学生達にも、貴重な仕事です。
出稼ぎに来るEU内の外国人も見かけます。
一方で、収入が一番の目的ではない人達もいます。
こちらは、今日が初めての収穫作業という女性。
「引っ越してきたばかりなので知り合いができたらいいな。」、と参加したとのこと。
彼女の本職は、蝶ネクタイデザイナーです。
南イタリアから1952年に移住し、たまたま住んだ村がワイン産地だったという男性は、近所のワイナリー当主と親しかった為、収穫時期に手伝うようになりました。
既に40年の大ベテランで、現在では、ポーターをする2人の息子と共に働いています。
南仏マルセイユ在住の消防士さんもいました。
ワイン村に産まれ育った彼は、毎年収穫時期に、故郷に戻って収穫に参加するそうです。
「マルセイユからの約500㎞の大移動も、収穫を皆で分かち合い、故郷の大自然に触れられる喜びを思えば苦にならないよ。」と笑顔でした。
長年収穫時期に手伝っている、というこちらの方は現在70歳の元警察官。
「ぶどうが芽吹き、花咲き、実をつけるまでの様子を見守り、収穫するということは感慨深いものです。畑に来るとほっとする。」
と、愛おしそうにぶどう畑を眺めていました。
選果台で、あざやかな手つきのマダムを発見しました。
約30年前、大学の友達であるワイナリーの娘に誘われて以来、ずっと参加しているそうです。
彼女の本職は法務関係の公務員。
「年間5週間の休暇中、毎年2週間を収穫にあてています。同僚達には休暇を取って働くなんて、と言われるけど、オフィスワークの私にはいい気分転換。重労働だけど、心地よい疲れです。」
とのこと。
彼女の素敵なメガネが気になり、聞いてみました。
ジュラ地方を代表する、トラクションプロダクションズ(リュネット・ジュラのメインブランド)のメガネでした。
ブルゴーニュのぶどう畑は仕立てが低い為、収穫は重労働です。
それでも「都会から抜け出し、自然に触れあいたい」「気分転換したい」「身体を思い切り動かしたい」などの思いで、収穫参加する人達が案外多いのです。
収穫で知り合って結婚、という話もよく耳にします。
かわいらしい収穫隊がいました。
ワイン村に産まれ育っても、ワインづくりを全く知らない人が増えたそうで、幼稚園教育の一環としての収穫体験です。
この中から、将来有望なワイン生産者が誕生するかもしれませんね。
今年、春の遅霜の影響で、フランス全体の収穫量は激減しました。
しかし幸いなことに、ここコート・ドールでは質量共に満足のいくものとなったので、2017年のワインはかなり期待できそうです。
皆様、どうぞお楽しみに!